ジャンセン(JANTZEN)の理念や考えに基づき、そこから派生したライフスタイルに纏わる“ヒト・モノ・コト”にフォーカスしていく連載企画「JANTZEN COLUMN」。
今回は、JANTZENとゆかりのある写真家・浅井愼平さんを訪ねました。現在発売中のコラボレートコレクションを通してJANTZENとの再共演が実現。かつて浅井さんが手がけたJANTZENの広告写真を皮切りに、1960年代デビュー当時の思い出、自身の表現とモチベーション、近頃の暮らしの楽しみについても教えてもらいました。
2025年4月某日、都内にある浅井さんのアトリエを訪ねました。
日本の写真界を代表する存在の1人である浅井愼平さん。“写真を撮ること”がまだまだ貴重だった1960年代から活動し、10代後半にAPAでグランプリを獲得したことをきっかけに一躍注目のフォトグラファーに。1966年、世界的アーティストの「ザ・ビートルズ(The Beatles)」が初来日した際には彼らが日本で過ごした100時間を記録し、それらをまとめた一冊の写真集を手がけたことでも知られています。
浅井さんのメジャーデビュー作となった写真集『ビートルズ 東京 100時間のロマン』(草森紳一 著/中部日本放送)。
「当時は“写す”ということが貴重でした。誰でも気軽に写真を撮れる時代ではなかったから、写真家という職業がちょっぴり特別な存在だったのかもしれませんね。僕の子どもの頃の夢は映画監督でした。ただ、何かを写したり記録したり表現したいと思っていく中で、自然と写真を撮るという行為に興味を持ったのでしょうね」(浅井愼平さん、以下同)
浅井さんがプロの写真家として歩み出した1960年代と今では、“写真”のあり方も大きく変わって、いわゆるカメラを持っていなくともスマートフォンで簡単に撮影ができ、プロアマ、精度を問わなければ全人口パパラッチと言っても過言ではない現代。長年プロとしてやってきた写真家として、昔と今、写真の役割の変化を感じることがあるのだろうか?
「写真の価値や撮影スタイルが変わっていく中でも写真という存在が“ある瞬間を留めるもの”であることには変わりなく、この先も表現やスタイル、手法が多様になりながら写真文化は進化していくと思いますし、それでいいと僕は思いますね。文化というのは、クラシックとモダンがいつも交差している。これから先のことは想像もつかないけれど、写真がフィルムからデジタル移行していくのをダイレクトに経験した身からすると、そのどちらにも良さがあって、何ならフィルム写真なら撮らなかったようなこともデジタルだと撮るようになったし、写真はもっと自由に楽しくなったなと思っています」
何気ない日常のワンシーンも写真を撮ることで美しさを見いだせたらいいですよね、と浅井さん。
「初めてアメリカに渡ったのは、1960年代の終わり頃。ハワイからロサンゼルスに行ったのを今もよく覚えています。当時は写真だけでなく飛行機で海外にいくことも容易とは言えない時代だったけれど、写真家として様々な依頼を受けて各国へ訪れていましたね。1日で日本の裏側にある外国に行けるというのが信じられなくて不思議だった。そういった仕事を手がけていく中で、JANTZENの広告写真も撮りました。今回発売されたTシャツに採用されている写真のひとつ(Gold Coast PHOTO Tシャツの写真)のビーチに佇む少年は、僕が“そこに立って”と指示したわけでもなく、様々な偶然が重なってできた一瞬でした」
何気ない風景だけど、なぜかはっとさせられる、見事にピースがはまった写真は、まるで計算された映画のワンシーンのよう。この頃の浅井さんの仕事は、お金をもらって海外の素敵な写真を撮ってくるというのがミッションだったと教えてくれました。ブランドのイメージを伝える写真に必ずしもブランドのアイテムが入っていない、というのも今の広告写真とは異なる点のひとつかもしれません。
「ありがたいことに毎日本当に忙しくて、お金はいらないから休みが欲しいって願っていた気がする。当時ね、まだ地下鉄のない東京・原宿にマンションを借りて住んでいました。いわゆる高級マンションだったけれど、そんな風に撮影で海外ばかり行っていたから、そこで過ごせた時間は僅かだった。しかし、そのマンションは自宅兼アトリエとして活用していたので、多くのクリエイターや芸能人たちが集っていましたね。そう、冒頭の写真に写っている緑の看板に書かれた“BIRDS STUDIO”とは、その自宅兼アトリエの呼称で、鳥の巣みたいなニュアンスで名付けたんだ」
大切なBIRDS STUDIOの看板は、今も浅井さんのアトリエの入口に飾られています。
この日は、自身の作品が表紙になった『俳句四季』の“表紙の言葉”を執筆中。
クリエイターとして長年一線で活躍するモチベーションはどんなところにあるのだろう?
「僕にとって、表現することは生きること。自問自答しながら制作する行為そのものが命と結びついている気がするんです。表現することと自己を見つめることはつながっていると思う。だから、仕事として誰かに見せるためでなくても、“自分の表現”として詩や俳句を通して日々感じたことを書き留めていますね」
「自分も歳を重ね、仕事や現場が変化してきました。今日みたいに執筆の仕事も多いです。でも写真を撮ることは今も主軸。もはやライフワークかな。出かける時は大抵Canonのコンパクトカメラを持っていて、ピンときたものを見つけたら写真を撮ります」
そんな浅井さんの近頃のライフワークであり癒しの時間は“朝の散歩”だそう。その際の相棒もCanonのカメラで、散歩途中にもときどき写真を撮るよ、と笑顔で教えてくれました。
North Shore PHOTOプリントTシャツ、Gold Coast PHOTOプリントTシャツ 各¥5,500
写真家・浅井愼平さんとのコラボレーションTシャツが発売中。かつて浅井さんが手がけた1980年代のJANTZENの広告写真の中から厳選した2カットをデザインに落とし込んだ特別なアイテム。ボディはオーガニックコットン100%で着心地の良さも◎。サイズはユニセックスで、M・L・LLの展開です。
浅井愼平
あさいしんぺい●写真家。1937年愛知県瀬戸市生まれ。1965年広告写真の登竜門である日本広告写真家協会賞を受賞し、1966年、ビートルズ来日時に密着して作られた写真集『ビートルズ東京 100時間のロマン』で写真家としてメジャーデビュー。「JANTZEN」の水着のポスターをはじめ、三和酒類の麦焼酎いいちこの広告写真、「VAN JACKET」ハウザースポーツポスター、など、数多くのCF・新聞・雑誌広告やポスターの作品を手がける。その後も1981年に「PARCO」のCF・ポスター・新聞・雑誌広告により東京アートディレクターズクラブ最高賞を、2008年には日本写真協会賞を獲得するなど、これまでに多数の受賞歴がある。日本を代表する写真家としての地位を築きながらも写真の分野にとどまらず、映画製作、文藝、工藝、音楽プロデュースなど、多方面で活躍中。
photograph_Yume Takakura / edit & text_Ryoko Suzuki / coordinater_Momoko Hashida(JANTZEN)